医療費控除で「いくら差し引けるか」「何が対象か」「誰が申告するか」を、国税庁のタックスアンサーにもとづいてまとめます。内容は2026年10月時点で確認したものです(国税庁の各ページは令和8年4月1日現在の法令)。
控除額の計算式
国税庁の「No.1120 医療費を支払ったとき(医療費控除)」による計算式は次のとおりです。
控除額 =(実際に支払った医療費の合計 − 保険金などで補てんされる金額)−(10万円 または 総所得金額等の5% のどちらか少ない額)
- 対象は、その年の1月1日から12月31日までに実際に支払った医療費です。未払いの分は、支払った年の対象になります。
- 控除額の上限は200万円です。
「10万円」ではなく「5%」になる人
差し引く額(足切り)は10万円が基本ですが、その年の総所得金額等が200万円未満の人は、総所得金額等の5%です。基準は「年収」ではなく「総所得金額等」です。
給与の収入だけの人なら、総所得金額等は給与所得(収入から給与所得控除を引いた額)になります。国税庁の「No.1410 給与所得控除」の式(収入190万円超360万円以下は「収入×30%+8万円」。令和8年分は220万円超から)で逆算すると、給与所得が200万円になるのは給与収入がおよそ297万円のときです。給与だけで収入がおよそ297万円より少ない人は、足切りが10万円より小さくなります。給与以外の所得がある人は、それも合わせて判断します。
計算の例
医療費を15万円支払い、そのうち3万円が保険金で補てんされた場合で比べます(計算は Python で行いました)。
| 総所得金額等300万円の人 | 総所得金額等150万円の人 | |
|---|---|---|
| 支払った医療費 − 補てん | 12万円 | 12万円 |
| 足切り | 10万円 | 7万5,000円(150万円の5%) |
| 医療費控除の額 | 2万円 | 4万5,000円 |
控除で減るのは「所得」です。税金が減る額は、控除額にその人の税率を掛けた額が目安になります。
- 所得税の税率は、課税される所得金額195万円未満が5%、195万円から330万円未満が10%です(国税庁 No.2260)。これに復興特別所得税(所得税額の2.1%)がかかります。
- 住民税の所得割の税率は10%です(総務省)。住民税にも医療費控除があり、計算式は所得税と同じです(広島市の案内)。
令和8年分では、合計所得金額489万円以下の人の基礎控除は104万円です(国税庁 No.1199)。このため上の例の2人は、ほかの所得控除がなくても課税される所得金額が195万円未満で、所得税率は5%になります。所得税率5%で計算すると、総所得金額等300万円の人は所得税等が約1,021円、住民税が約2,000円、総所得金額等150万円の人は所得税等が約2,297円、住民税が約4,500円減る計算です(税率の境目をまたがない場合の目安。端数処理で少しずれます)。
住民税は前年の所得で計算するので(総務省)、住民税が減るのは医療費を支払った年の翌年度分です。会社員なら、ふつうは翌年6月から翌々年5月までの給与天引きの分です(地方税法321条の5)。
対象になるもの・ならないもの
国税庁の「No.1122 医療費控除の対象となる医療費」と質疑応答事例から、主なものを挙げます。
対象になる主なもの
- 医師・歯科医師による診療や治療の費用
- 治療や療養に必要な医薬品の購入費
- 入院や介護施設への収容の費用
- 治療のための、あん摩マッサージ指圧師などによる施術の費用
- 通院費など、診療を受けるために直接必要な費用
- 治療に直接必要な義手・義足・眼鏡などの購入費(一定のもの)
対象にならない主なもの
- 健康診断や人間ドックの費用。ただし、健康診断で重大な病気が見つかり、引き続き治療をした場合は、その健康診断の費用も対象になります。
- ビタミン剤など、病気の予防や健康増進のための医薬品
- 自家用車で通院するときのガソリン代や駐車場の料金
- タクシー代(電車やバスなどの公共交通機関が利用できない場合を除く)
- 容姿を美しくする・容ぼうを変えるための整形手術の費用
- 疲れを癒す、体調を整えるといった、治療に直接関係のないマッサージなど
歯列矯正
国税庁の質疑応答事例「歯列を矯正するための費用」では、発育段階にある子どもの成長を妨げないように行う不正咬合の矯正のように、年齢や目的からみて社会通念上必要と認められるものは対象、容姿を美化するための矯正は対象外としています。将来の就職や結婚を考えての矯正は、一般に容姿を美化するためのものとされ、対象外です。
家族の分をまとめる: 「生計を一にする」
医療費控除は、本人のほか、本人と生計を一にする配偶者やその他の親族のために支払った医療費が対象です(No.1120)。
「生計を一にする」は、必ずしも同じ家に住んでいることではありません。国税庁の質疑応答事例(離れて暮らす親族の医療費を負担した場合)では、所得税基本通達2-47 を引いて、次の場合は生計を一にするとしています。
- 仕事・学校・療養などの都合で離れて暮らしていても、休みには一緒に暮らすのが常である場合
- 常に生活費・学資金・療養費などの仕送りをしている場合
同じ事例では、生計を一にしている場合、医療費を実際に支払った人の医療費控除の対象になるとしています。家族の医療費をまとめるときは、その医療費を誰が支払ったかで、申告する人が決まります。
保険金などで補てんされた分の差し引き方
入院給付金など保険金で補てんされる金額は、その給付の目的になった医療費の金額を限度として差し引きます。引ききれない金額が出ても、ほかの医療費からは差し引きません(No.1120)。
セルフメディケーション税制との選択
医療費の合計が足切りに届かない場合は、セルフメディケーション税制(特定一般用医薬品等購入費の特例)が使えることがあります。国税庁の「No.1129」によると次のとおりです。
- 対象の医薬品の購入費(保険金などで補てんされる分を除く)から1万2,000円を引いた額を控除します。上限は8万8,000円です。例えば対象の医薬品を3万円買った場合、控除額は1万8,000円です。
- 申告する人が、健康診査・予防接種・がん検診など「一定の取組」を行っている必要があります。
- 通常の医療費控除との選択で、両方は使えません。一度選んだ後に、更正の請求や修正申告で選び直すことはできません。
令和8年度の税制改正で、この制度の延長と対象の見直しが決まっています。財務省の「令和8年度税制改正の大綱」と厚生労働省の資料によると、スイッチOTC医薬品の部分は適用期限が撤廃され、それ以外の医薬品は5年延長されます。消化器官用薬などの一部の医薬品やOTC検査薬が対象に加わり、痩身・美容目的で使われるおそれのある医薬品は外れます。見直し後の内容は、令和9年分(2027年1〜12月)以後の所得税と、令和10年度分以後の住民税に適用されます。
申告のしかた
- 会社員は、医療費控除を受けるときは確定申告(還付申告)をします。国税庁の「No.2030 還付申告」は、給与所得者が還付申告できる場合の1つとして医療費控除を挙げています。
- 領収書をもとに「医療費控除の明細書」を作り、確定申告書に添付します。健康保険などから届く医療費通知があれば、添付して明細書の記載を簡単にできます(No.1120)。
- 領収書は提出しませんが、確定申告期限などから5年間、税務署から提示や提出を求められることがあります(医療費通知を添付した分を除く)。保管しておきます。
- 還付申告は、翌年1月1日から5年間提出できます(No.2030)。過去の年の分も、5年以内なら申告できます。
- 給与以外の所得が20万円以下で確定申告が不要な人も、医療費控除で申告するときは、その所得もあわせて申告します(国税庁 No.1900 の Q&A)。副業がある人の申告は「副業がある会社員の確定申告と住民税の申告」にまとめています。
まとめ
- 控除額は「支払った医療費 − 補てん − 10万円(総所得金額等が200万円未満なら、その5%)」で、上限は200万円です。
- 基準は年収ではなく総所得金額等です。給与だけなら収入およそ297万円未満で5%の基準になります。
- 家族の分は、生計を一にしていれば、実際に支払った人がまとめて申告します。
- セルフメディケーション税制とはどちらか一方だけを選びます。