転職や退職のときに必要になる税金の手続きを、住民税・所得税(年末調整と源泉徴収票)・退職金の順にまとめます。法律は e-Gov 法令検索の地方税法、国税庁のタックスアンサー(令和8年4月1日現在の法令)、自治体の案内で確かめました。
住民税: 前年の所得に、翌年6月から課税される
総務省によると、個人住民税は前年1月1日から12月31日までの所得で計算し、その年の1月1日に住所がある市区町村が課税します。所得割の税率は10%(市町村民税6%・道府県民税4%)です。
会社員の住民税は、会社が給与から天引きして納めます(特別徴収)。地方税法321条の5第1項は、年税額の12分の1を6月から翌年5月まで毎月徴収すると定めています。
このため、退職した時点で、その年度の住民税がまだ残っていることがあります。また、退職した年の所得に対する住民税は、翌年度(翌年6月から)に課税されます。名古屋市の案内でも、退職前の給与の所得から計算した住民税の納税通知書が、翌年6月に送られる例を示しています。
退職したときの、残りの住民税の納め方
地方税法321条の5第2項は、給与を受けなくなった月の翌月以降の分は、会社は徴収しなくてよいとしたうえで、次の例外を定めています。
| 退職した時期 | 残りの住民税の扱い |
|---|---|
| 6月1日〜12月31日 | 本人が申し出れば、最後の給与や退職金から残りを一括で天引き。申し出なければ、市区町村から届く納税通知書で自分で納める(普通徴収) |
| 1月1日〜4月30日 | 申し出がなくても、5月31日までに支払われる給与や退職金が残りの税額を超えるなら、そこから一括で天引き |
これとは別に、ほかの会社に就職し、引き続き給与から差し引くことを申し出れば、転職先の給与から天引きが続きます(名古屋市・神戸市の案内)。
- 1月〜4月に退職した場合でも、5月31日までに支払われる給与や退職金の合計が残りの税額に満たないときは、普通徴収に切り替わります(大阪市の案内)。
- 天引きは6月から翌年5月までの12回なので、5月分の給与からの天引きが済んでいれば、その年度の残りはありません。
- 退職すると、会社は「給与所得者異動届出書」を、異動した月の翌月10日までに市区町村へ出します(大阪市の案内)。転職先に就職しても、天引きを続ける申し出をしなければ普通徴収になります(神戸市の案内)。
残りがいくらになるかの確かめ方
残りの額は、会社経由で届く住民税の特別徴収税額の通知書に書かれた毎月の額と、残りの月数で分かります。例えば、月割額が2万円(仮の金額)の場合、次のようになります。
| 退職の例 | 残りの月 | 残りの住民税 |
|---|---|---|
| 7月末に退職 | 8月〜翌年5月の10か月 | 20万円 |
| 2月末に退職 | 3月〜5月の3か月 | 6万円 |
7月末の退職で一括を申し出なければ、この20万円は普通徴収になります。さらに翌年6月からは、退職した年の所得に対する住民税が始まります。
普通徴収の納期
地方税法320条は、普通徴収の納期を6月・8月・10月・1月の中で市区町村の条例で定めるとしています(特別な事情があれば別の納期にできます)。届いた納税通知書で、納期と金額を確かめます。
所得税: 年末調整と源泉徴収票
退職した会社から源泉徴収票を受け取る
国税庁の「No.7411」によると、会社は年の途中で退職した人に、退職の日以後1か月以内に給与所得の源泉徴収票を交付しなければなりません。転職先での年末調整や、自分で確定申告をするときに使います。
同じ年のうちに転職した場合
国税庁の「No.2674 中途就職者の年末調整」によると、転職先は、前の会社の給与も含めて年末調整をします。前の会社の給与と天引きされた税金・社会保険料は、前の会社の源泉徴収票で確かめます。源泉徴収票で確認ができないと年末調整はできず、自分で確定申告をして精算することになります。
年末までに再就職しなかった場合
国税庁の「No.2665 年末調整の対象となる人」によると、年の途中で退職した人は、原則として年末調整の対象になりません。年の途中で退職した人のうち年末調整の対象になるのは、主に次のような人です。くわしい条件は No.2665 で確かめてください。
- 海外支店等への転勤などで非居住者となった人
- 死亡によって退職した人
- 著しい心身の障害のために退職した人(再就職して給与を受ける見込みのある人を除く)
- 12月に支給される給与を受け取った後に退職した人
- パートタイマーなどで、その年の給与の総額が一定額以下の人(その年に他の勤務先から給与を受ける見込みのある人を除く)
年末調整を受けていない人は、天引きされた所得税が納め過ぎになっていることがあります。国税庁の「No.2030 還付申告」は、還付申告ができる場合の1つに「年の途中で退職し、年末調整を受けずに源泉徴収税額が納め過ぎとなっているとき」を挙げています。還付申告は、翌年1月1日から5年間提出できます。医療費控除などもこのときにあわせて申告できます(「医療費控除の計算と対象、家族分のまとめ方」)。
退職金: 「退職所得の受給に関する申告書」を出す
退職金(退職所得)は、ほかの所得と分けて課税されます。国税庁の「No.1420」による計算は次のとおりです。
退職所得の金額 =(退職金 − 退職所得控除額)× 1/2
| 勤続年数 | 退職所得控除額 |
|---|---|
| 20年以下 | 40万円 × 勤続年数(80万円に満たないときは80万円) |
| 20年超 | 800万円 + 70万円 ×(勤続年数 − 20年) |
勤続年数に1年未満の端数があるときは、1年に切り上げます。
勤続5年以下は1/2にならない部分がある
役員等以外で勤続年数が5年以下の人の退職金(短期退職手当等)は、控除後の金額のうち300万円を超える部分は1/2にしません(No.1420)。役員等で勤続5年以下の人の退職金(特定役員退職手当等)は、1/2の計算がありません。
申告書を出すかどうかで、天引きの額が変わる
国税庁の「No.2732」と「退職金と税」によると、次のようになります。
- 会社に「退職所得の受給に関する申告書」を出した人は、上の計算で求めた税額が天引きされ、原則として確定申告は不要です。
- 出さなかった人は、退職金の額に一律20.42%の所得税等が天引きされ、確定申告で精算します。
退職金には住民税もかかり、通常は支払いのときに天引きされます(国税庁「退職金と税」)。住民税は、退職所得の金額に市町村民税6%・道府県民税4%を掛けて計算します(総務省)。
計算の例
前提: 役員ではない人、勤続10年2か月、退職金500万円、申告書を提出。計算は Python で行いました(所得税の税率は国税庁 No.2260、復興特別所得税2.1%)。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 勤続年数 | 11年(2か月を1年に切り上げ) |
| 退職所得控除額 | 440万円 |
| 退職所得の金額 | (500万円 − 440万円)× 1/2 = 30万円 |
| 所得税等(5% × 1.021) | 1万5,315円 |
| 住民税(10%) | 3万円 |
申告書を出さなかった場合は、500万円 × 20.42% = 102万1,000円が天引きされ、確定申告で精算することになります。
勤続3年(役員ではない)で退職金600万円なら、退職所得控除額は120万円で、控除後は480万円です。300万円までの部分は1/2で150万円、300万円を超える180万円はそのまま加え、退職所得の金額は330万円になります(すべて1/2なら240万円)。
まとめ
- 住民税は前年の所得に、6月から翌年5月まで12回で課税されます。退職した翌年も課税があります。
- 1月〜4月の退職は残りを原則一括で天引き、6月〜12月の退職は申し出れば一括、申し出なければ自分で納付です。
- 源泉徴収票は退職の日以後1か月以内に交付されます。年内に転職したら転職先へ、しなければ確定申告(還付申告)に使います。
- 退職金は「退職所得の受給に関する申告書」を出せば、原則として確定申告は不要です。
副業がある人の申告は「副業がある会社員の確定申告と住民税の申告」にまとめています。