老後資金はいくら必要かを自分で計算する

「老後2,000万円」の元になった2019年の報告書、家計調査2025年の高齢世帯の収支、令和8年度の年金額をもとに、自分の必要額の出し方と積立額の目安を前提つきの計算で説明します。

出典(元データ)

最終確認日: 2026年10月21日

老後に必要なお金は、「老後の支出」と「年金などの収入」の差を、何年分用意するかで決まります。人によって支出も年金額も違うので、全員に当てはまる金額はありません。この記事では、公式の統計と令和8年度の年金額をもとに、自分の数字で考える手順を説明します。

「老後2,000万円」の数字はどこから来たか

2019年(令和元年)6月3日に、金融審議会の市場ワーキング・グループが報告書「高齢社会における資産形成・管理」をまとめました。報告書には次のように書かれています。

夫 65 歳以上、妻 60 歳以上の夫婦のみの無職の世帯では毎月の不足額の平均は約5万円であり、まだ 20~30 年の人生があるとすれば、不足額の総額は単純計算で 1,300 万円~2,000 万円になる。

この「2,000万円」が大きく報道されました。その後、政府はこの報告書を「正式な報告書として受け取らない」という対応をとりました。政府の答弁書(令和元年7月5日)は、この対応を「世間に広がった誤解や不安を一日でも早く払拭するために必要なもの」と説明しています。報告書の本文は、今も金融庁のサイトに掲載されています。

ここで大事なのは、2,000万円が「平均的な世帯の、ある時点の家計の差額」を単純に積み上げた数字だという点です。自分の家計に当てはまるとは限りません。

最新の統計では差額はいくらか

総務省統計局の家計調査(2025年平均)では、65歳以上の無職世帯の家計は次のとおりです(1か月あたり)。

世帯可処分所得消費支出差額(可処分所得−消費支出)
65歳以上の夫婦のみの無職世帯221,544円263,979円−42,434円
65歳以上の単身無職世帯118,465円148,445円−29,980円

差額は家計調査の表の値です。端数処理のため、可処分所得と消費支出を引き算した結果とは1円ずれることがあります。

可処分所得は、実収入から直接税や社会保険料などの非消費支出を引いた額です。夫婦のみの無職世帯の実収入は254,395円、非消費支出は32,850円です。どちらの世帯も、平均では毎月の消費支出が可処分所得を上回っています。

この差額が20年・30年続くとして単純に掛け算すると、次のようになります(2019年の報告書と同じ考え方の単純計算です)。

世帯20年分30年分
夫婦のみの無職世帯(月42,434円)約1,018万円約1,528万円
単身無職世帯(月29,980円)約720万円約1,079万円

計算: 月の差額 × 12か月 × 年数。万円未満は四捨五入しています。

これは平均値です。物価の変化、介護や住まいの修繕などの大きな出費、持ち家か賃貸かの違いは入っていません。自分の数字で計算し直すことが大切です。

年金額の目安(令和8年度)

厚生労働省は、令和8年度の年金額を次のように公表しています(月額。2026年1月23日の発表)。

種類令和8年度の月額
国民年金(老齢基礎年金・満額・1人分)70,608円
厚生年金(夫婦2人分の老齢基礎年金を含む標準的な年金額)237,279円
  • 国民年金の70,608円は、昭和31年4月2日以後に生まれた人の額です。昭和31年4月1日以前に生まれた人は70,408円です。
  • 厚生年金の237,279円は厚生労働省のモデルで、「男性の平均的な収入」(平均標準報酬〈賞与を含む月額換算〉45.5万円)で40年間働いた人の老齢厚生年金と、2人分の老齢基礎年金(満額)を合わせた額です。働いた期間や収入がこれと違えば、額も変わります。
  • 令和8年度の年金額は、令和7年度から、基礎年金が1.9%、厚生年金(報酬比例部分)が2.0%引き上げられました。

国民年金だけの2人(満額で月141,216円)と、厚生年金の標準的な額(月237,279円)では、月96,063円の差があります。会社員として厚生年金に入っていた期間があるかどうかで、老後の収入は大きく変わります。

これらはモデルの額で、実際の受給額は人によって違います。自分の見込額は、日本年金機構の「ねんきんネット」や「ねんきん定期便」で確かめられます。

自分の必要額を計算する3ステップ

ステップ1: 老後の毎月の支出を見積もる

今の家計簿をもとに、老後も続く支出と、なくなる支出(住宅ローン、子どもの教育費など)を分けます。家計調査の数字(夫婦のみの無職世帯で月263,979円、単身で月148,445円)は比べる材料になりますが、あくまで平均です。

ステップ2: 老後の毎月の収入を見積もる

ねんきんネットなどで確かめた年金見込額をもとにします。家計調査でも、65歳以上の夫婦のみの無職世帯は平均で毎月32,850円の税金や社会保険料(非消費支出)を払っています。収入は手取りで考えます。企業年金や、退職後も働く予定があればその収入も足します。

ステップ3: 差額 × 年数 + 大きな出費

必要額 =(毎月の支出 − 毎月の収入)× 12か月 × 老後の年数 + 大きな出費の予定

大きな出費には、住まいの修繕、車の買い替え、介護、医療などがあります。退職金や今の貯蓄で、このうちどれだけをまかなえるかを考えます。老後の資金は、老後資金のシミュレーターでも試算できます。

積み立てると65歳時点でいくらになるか

足りない分を積み立てで準備する場合の例です。

前提: 毎月末に同じ額を積み立て、利回りは年率を12で割った月利で毎月複利とします。利回りは期間中ずっと一定と仮定しています。実際の運用では利回りは毎年変わり、元本を下回ることもあります。税金と手数料は考えていません。万円未満は四捨五入しています。

月3万円を65歳まで積み立てた場合

開始年齢積立期間積み立てた元本年3%で運用年5%で運用
25歳40年約1,440万円約2,778万円約4,578万円
30歳35年約1,260万円約2,225万円約3,408万円
40歳25年約900万円約1,338万円約1,787万円
50歳15年約540万円約681万円約802万円

同じ月3万円でも、積み立てる期間が長いほど、運用で増える部分が大きくなります。

65歳までに2,000万円をためるのに必要な毎月の額

2,000万円は、報告書の数字に合わせた例です。自分の必要額に置き換えて考えてください(前提は上と同じ。100円未満は四捨五入)。

開始年齢積立期間運用しない(0%)年3%で運用年5%で運用
30歳35年月47,600円月27,000円月17,600円
40歳25年月66,700円月44,800円月33,600円
50歳15年月111,100円月88,100円月74,800円

始めるのが遅いほど、毎月の負担は大きくなります。運用する場合は、利回りが想定どおりにならない可能性も考えておく必要があります。自分の条件では、複利計算やNISA 積立シミュレーターで試せます。積み立てに使える制度は、新NISAとiDeCoの違いと使い分け方とiDeCoの始め方と手数料・手続きの流れで説明しています。

まとめ

  • 「老後2,000万円」は、2019年の金融審議会の報告書にある、平均的な夫婦世帯の毎月の不足額約5万円を20〜30年分積み上げた単純計算です。政府はこの報告書を正式な報告書として受け取らないという対応をとりました。
  • 家計調査(2025年平均)では、65歳以上の夫婦のみの無職世帯の毎月の差額は−42,434円、単身無職世帯は−29,980円です。
  • 令和8年度の年金額は、国民年金(満額・1人分)が月70,608円、厚生年金の標準的な額(夫婦)が月237,279円です。
  • 必要額は「(支出 − 収入)× 12か月 × 年数 + 大きな出費」で、自分の数字で計算します。

よくある質問

老後2,000万円問題の報告書は撤回されたのですか?
2019年6月3日の金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書について、政府は「正式な報告書として受け取らない」という対応をとりました(令和元年7月5日の政府答弁書)。報告書の本文は今も金融庁のサイトに掲載されています。
最新の統計では、高齢夫婦世帯の毎月の不足額はいくらですか?
総務省の家計調査(2025年平均)では、65歳以上の夫婦のみの無職世帯の可処分所得は221,544円、消費支出は263,979円で、差額は−42,434円です。平均値なので、自分の家計で計算し直す必要があります。
令和8年度の国民年金の満額はいくらですか?
老齢基礎年金(満額・1人分)は月70,608円です(昭和31年4月2日以後生まれ)。昭和31年4月1日以前生まれの人は月70,408円です(厚生労働省)。
月3万円を30歳から65歳まで積み立てるといくらになりますか?
元本は約1,260万円です。毎月複利で利回りが一定と仮定し、税金・手数料を考えない計算では、年3%なら約2,225万円、年5%なら約3,408万円です。実際の利回りは変わり、元本を下回ることもあります。

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